ベンチャービジネス振興政策として画期をなした創造法「中小企業の創造的事業活動の促進に関する臨時措置法」が来たる4月13日に期限切れを迎えます。中小企業庁技術課の課長補佐時代に創造法の策定に関わり、その後も、300社を超える認定企業を訪問し、経営者の方のヒアリングを続けている私としては、本当に感慨深いものがあります。 この10年間を振り返って見ると、創造法は、10,792件(2004年9月末現在)を認定し、その中から36社の株式公開企業が誕生しています。また、東証マザーズや大証ヘラクレスといった新興株式市場の整備が進むとともに、民間ベンチャーキャピタルの資金量が随分と拡大するなど、ベンチャービジネスを囲む環境には大きな変化がありました。 |
創造法の認定件数と上場件数の推移 (2004年9月末現在)
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ここで、創造法について、少しばかり昔話をすることをお許しください。実は、係長時代にも中小企業庁技術課に勤務していたことがあり、その時にも、我が国初のベンチャービジネス振興法である技術法「中小企業技術開発促進臨時措置法」の策定に従事しました。この技術法は、1980年代前半に起こった第2次ベンチャーブームとハイテクブーム(エレクトロニクス、新素材、バイオテクノロジー)を受けて制定され、元気の良い個別中小企業を初めて法的に支援したということで、中小企業関係の法律の中で画期的なものでした。 しかし、技術法は、1985年〜1995年の10年間で個別中小企業50社と150組合を認定するにとどまりました。このように技術法が低い実績しか残せなかった原因は、プラザ円高のために第2次ベンチャーブームが施行後まもなく終焉したこともありましたが、用意された技術高度化補助金が組合等だけを対象にするなど、個別中小企業では認定を受けてもメリットが少なかったことによります。 そこで、後継法である創造法の策定に当たっては、技術法の反省を踏まえて、中小企業庁の1990年代ビジョンの中で登場した「創造的中小企業」をキーワードに、個別中小企業中心の施策体系を構築することにしました。認定された個別中小企業向けに、技術改善費補助金の中に創造法枠や、当時としては画期的な無担保・第3者保証なしの信用保証制度などを新たに設けました。そして、当時の日本経済は、バブル崩壊後の閉塞感に苛まれ、次のリーディングインダストリーが見えない状況にありましたが、その突破口を開く役割をイノベーションに挑戦する多様なベンチャービジネスに託すことにしたのです。 さて、創造法の認定基準の中心をなす「著しい新規性を有する技術」とは、新たな技術要素が付加され、研究開発やデザイン開発を行わなければ克服できない課題を有するもので、経営上のノウハウを含むものです。簡単に言うと、製造業のみならず様々な業種におけるイノベーションを法律的に定義したもので、この定義自体は、技術法からそのまま引き継いだものでした。1993年制定のリストラ法「特定中小企業者の新分野進出等による経済の構造的変化への適応の円滑化に関する臨時措置法」に端を発する中小企業経営革新支援法の認定基準「3%の付加価値向上」とは、趣を異にしていることがおわかりいただると思います。 |
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次に、創造法の政策効果について考えて見ましょう。創造法では、オンリーワンの技術でハイテク産業を支える中小企業や斬新なサービスを提供する地域密着型の中小企業も沢山支援しているので、株式公開だけが創造法の成果という訳ではありません。しかしながら、大成功を納める一握りの企業がある一方で、大半の企業がリビングデッドに陥ったり、中には倒産してしまうベンチャービジネスの特性を考えると、売上高の伸びの平均値などで議論するよりも株式公開に着目した方が良いと思われます。 そこで、2004年9月末現在で株式公開している認定企業の新規株式公開(IPO)時の時価総額を見てみると、36社の合計で6,670億円にのぼります。簡単なコーホート分析をすると、2012年度末には、株式公開する認定企業が84.5社まで増加し、IPO時の時価総額の累計も1兆5632億円となることが予想されます。 |
創造法認定企業のIPO時価総額(初値ベース)
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上場企業数 |
時価総額の合計 |
2004年9月末 |
36社(実績) |
6,670億円 |
2012年度末 |
84.5社(予測) |
1兆5,632億円 |
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一方、前記の創造法枠の補助金は、1995〜2004年度の累計予算で国費201億円でした。都道府県の負担額も同額なので、合計402億円が投入されたことになります。つまり、補助金の累計額は、IPO時の時価総額(予想額)の2.6%に過ぎません。IPOから得られる税収やその後の法人関係税収を考えると、国や都道府県の人件費や事務経費を入れても、創造法によるベンチャービジネス振興策は、投入した政策資源を十分に回収できるものと考えられます。 すなわち、国や自治体がベンチャービジネスの振興に取り組むことは、理(利?)に適ったものであるので、厳しい財政下でも優先的に実施するに値するということになります。今後とも、九州経済産業局では、関係機関の協力を得ながら、ベンチャービジネスの創業・育成に努めていく所存ですので、よろしくお願いいたします。
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