創造法「中小企業の創造的事業活動の促進に関する臨時措置法」の成果― 株式上場・公開データから見た分析 ―Efficiency of "the Temporary Law concerning Measures for the Promotion of the Creative Business Activities of Small and Medium Enterprises" −Analysis based on Initial Public Offering data −経済産業省九州経済産業局 内藤理
(要 旨)
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図表−2 創造法(1995〜2005)の認定企業のうち上場した企業(47社) (2006年3月現在)(PDF形式) |
次に、認定件数と上場件数と補助金交付件数の地域分布を図表-3に示す。認定件数を見ると、関東経済産業局管内で約半分を占め、特に東京都が全体の1/4となっている。一方、上場件数を見ると、北海道、岩手県、秋田件、高知県、鹿児島県及び沖縄県のように東京から遠いところでも成功事例が生まれていることが分かる。
また、補助金の交付状況を見ると、大都市圏よりも地方圏の道県の方が手厚く交付してていることが分かる。
続いて、創造法の認定件数(累計)と上場件数(累計)の推移を図表-4に示す。なお、2005年度(期限切れまでの13日間)の18件は、2004年度のデータに含めて表示・分析している。(以下、同様に処理)
図表-5を見ると、現時点で上場件数が最も多いのは、認定から4年度目と5年度目である。また、経過年数毎の上場確率を見ると、9年度目に最大のピークがあり、5年度目に第2のピークがある。このことから、認定の効果が出るまでには相当程度の時間が必要であることがわかる。
したがって、ベンチャー関連の政策を評価する時には、早急な判断は避けるべきであり、最低でも5年程度経ってから中間評価することが適当であると考えられる。
なお、5年度目と9年度目に上場確率のピークがあることは、研究開発
→ 製品化 →
販路開拓という事業サイクルの期間を示しているようで興味深いが、今回は、分析していない。今後の検討課題であると考えている。
創造法の認定企業から、将来、どのくらいの上場企業が生まれるかを年齢効果だけを適用した簡単なコーホート分析で推計することとする。
まず、全ての認定案件11,006件から、組合等の団体による認定220件と2回目以降の認定1,031件を除いて、純企業9,755社(個人を含む)をコーホート分析の母集団とした。
次に、各年度の認定企業群に、図表-5で示した経過年数毎の上場確率を適用し、上場件数の将来予測を行った。その結果を図表-6に示すが、これによると、創造法認定企業の上場件数は、2006年3月末の47社から2015年3月末の86.1社に増加する。
中小企業向けの補助金は、しばしば、バラマキ補助金と批判されることが多い。そこで、中小企業技術改善費補助金(創造的中小企業振興枠)とその後継補助金の効果を測ってみることにした。
その結果は、次に示す通りであるが、相当程度の効果を実証できたものと考えられる。
アナウンスメント効果
図表-8は、年度毎の認定件数と補助金の予算額(国負担分のみ)の推移を示している。ここからは、予算額が伸びると翌年度に認定件数が伸び、予算額が減少すると翌年度に認定件数が減少する傾向が読みとれる。1995年度に、突然、同補助金が1,441百万円で登場したサプライズにより1996年度の認定申請が大幅に増加し、1999年度に予算額が2,884百万円から2,676百万円に初めて減少した失望感から、2000年度に認定申請が大幅に減少したように見える。その後の認定件数の漸減傾向も補助金の継続的な減少で説明できる。特に、2002年度予算の大幅な減少が2003年度の認定件数の大幅な減少を引き起こしたものと考えられる。
以上から、同補助金の増減は、1年のタイムラグをもって、中小企業の申請意欲や都道府県の発掘姿勢を誘導するアナウンスメント効果を発揮するものと考えられる。
上場促進効果
図表-3で示した認定件数と上場件数と補助金交付件数の関係から、補助金を受けた認定企業の上場確率が補助金を受けなかった認定企業よりも大幅に高いことが推測される。
これを正確に測るために、先程のコーホート分析と同様に、組合等の団体や2回目以降の認定案件や2回目以降の補助金交付案件を除いた純企業数(個人を含む)で分析した。その結果は、図表-9に示すように、認定を受けただけの企業7859社のうち27社が上場しているのに対して、補助金も受けた認定企業1896社のうち20社が上場している。上場確率でいうと、認定を受けただけの企業の0.34%に対して、補助金も受けた認定企業は、1.05%と3倍以上の差が生じており、補助金が上場促進効果を有しているものと考えられる。
もちろん、補助金の採択に当たっては、創造法の認定の際よりも事業性評価を丁寧に行うので、上場確率が高くなることは当然であるという見方もある。しかし、補助金を受けることで、お墨付き効果が一層高まり、取引に成功したという見方もできる。ここは、単純に補助金の上場促進効果を認めることとしたい。
都道府県の特性
ここで、図表-9に現れた都道府県の特性について述べることとする。
まず、岩手県や熊本県のように県予算の確保に努め、認定企業の多くに補助金を交付した県があった一方で、栃木県や三重県のように補助金を交付した純企業数が1桁に留まる県もあった。このような取組み姿勢の差が地域経済に将来どのような影響を及ぼすのか興味深い。
また、補助金の審査段階で、神奈川県や千葉県や兵庫県は、上場企業に成長する企業を的確に採択したが、埼玉県や大阪府は、完全に取りこぼしてしまった。少ない上場数で補助金の審査能力の高低を判断することは適当ではないが、今後の政策立案に当たっては、その審査手法を比較研究する必要があると考えられる。
ベンチャービジネスの特徴として、大成功を納める一握りの企業がある一方で、大半の企業は、リビングデッドに陥ったり、倒産してしまう。そのため、通常の中小企業施策のように、アンケート調査で売上高の伸び率などを集計して企業数で割ったような単純平均で評価すると、その値は低くなってしまう。また、加重平均で評価しようとしても、大成功を納めた企業のうち何社を評価対象とするかで、その値が大きく変化してしまう。
そこで、今回は、上場した認定企業のIPO時の時価総額(初値ベース)で評価することとした。もちろん、IPO(新規上場)だけがベンチャービジネスの成功の姿ではなく、オンリーワンの技術で先端産業を支える企業群も創造法の大きな成果であるが、定量化し易いということで採用した。
既に上場した47社(図表-2)について、IPO時の時価総額(初値ベース)を合計すると、8913億円となった。最大値は88,750百万円、最小値は1,117百万円で、平均値は190億円であった。これを図表-7で示した86.1社という将来予測件数に適用すると1兆6329億円になった。すなわち、創造法が新規上場という形で社会に還元する経済効果は、約1兆6000億円ということになる。
一方、支援措置の中心をなす技術改善費補助金(創造的中小企業振興枠)とその後継補助金の予算額は、1995〜2005年度の11年間の累計で国費202億円(都道府県負担も同額)であった。信用保証の特例や低利融資等のその他の支援措置は、支援額に見合った資金のリターンが制度に組み込まれているので、政策資源の投入量としては、同補助金を採用することとした。
同補助金とIPO時の時価総額(初値ベース)との比較を行うと、同補助金の累計額は、IPO時の時価総額(初値ベース)の1.2%(含む都道府県負担で2.5%)に過ぎない。IPOから得られる税収やその後の法人関係税収を考えると、国や都道府県の人件費や事務経費を入れても、創造法によるベンチャー振興は、十分採算に乗っていると言える。
補助金を受けた上場企業20社の状況を見ると、IPO時の時価総額(初値ベース)の総計は、3,674億円であり、受け取った補助金は、204百万円(決算ベース)であった。都道府県の負担分を加えると、認定企業側は、その倍額である409百万円(1社当たり平均20百万円)の補助金を受け取ったことになる。
ここで、当然、補助金を出資金に置き換えて、直接、収益を確保しようというアイデアが浮かんでくる。しかし、創造法の支援メニューとして実施された各県のベンチャー財団による投資業務がほとんどの都道府県で成功しなかったことから、このアイデアについては、別の機会に議論をしたいと考えている。
当然のことながら、上場した認定企業の成功要因は、まず第一に、経営者と従業員のたゆまぬ努力であり、次に、当該企業を支持した顧客の力である。
各種の政策的支援は、あくまで補助的な要素であるが、その中で創造法は、国と都道府県が協力してイノベーション志向の中小企業を幅広く発掘するという日本型のベンチャー振興システムを確立し、多数の上場企業を生み出した。
この日本型のベンチャー振興システムは、補助金等で投入する政策資源よりも遙かに大きな経済効果をIPOなどで社会に還元している。厳しい財政下でも、このような形で国と自治体が協力してベンチャー振興に取り組むことは、意義のあることであると確信している。