ウェブサイト「環」

平成16年11月26日 第122号
九州経済産業局広報・情報システム室


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■九州経済産業局幹部雑感

 

   悩める公設試に再評価の光を

地域経済部長 内藤 理(ないとう おさむ)

 公設試験研究機関(以下「公設試」という。)は、都道府県(一部の市及び町)によって設立された515の公営研究機関(2003年3月31日現在)の中で、中小企業のニーズに密着した形で技術研修、技術指導及び中小企業向け技術の研究開発等を実施しているものです。一般には、経済産業省の主催する産業技術連絡会議に参加している157の公営研究機関(2004年1月26日現在)を公設試と呼んでいます。

公設試の歴史は古く、農商務省令に基づき、明治35年(1902年)4月に、最初の公設試として福井県繊維工業試験場他が設立されたことに始まるといわれています。この明治時代の政策は、米国の農業技術移転センターにアイデアの源があるという説もありますが、面白いことにクリントン政権が日本の公設試にならって、全米に170ヶ所のMTC(Manufacturing Technology Center)を整備する計画(技術:経済成長のエンジン)を打ち出し、逆輸入されることとなりました。このように、日本のKosetsushiは、日本のものづくり基盤を支える中核的機関として、国際的には高い評価を得ています。

公設試は、その長い歴史の中で、技術力向上を目指す地域の中小製造業を地道に支援し、多くの地上の星たちを育ててきました。そして、本田宗一郎さんに塗装技術の指導をしたり、稲盛和夫さんに試験研究室を開放したこともありましたが、これらを声高に誇ることもありませんでした。まさに、公設試自身が地上の星と言える存在です。もちろん、公設試といっても、大都市の200人を超える公設試から地場の伝統産業のための2〜3人の公設試まで、その規模と技術水準は千差万別ですが、津々浦々で我が国のものづくり基盤を支える重要な役割を担っていることに変わりありません。

今、その公設試が大きな転機を迎えています。1996年度に8,718名の職員と1,160億円の予算を有していた全国の公設試は、2003年度には、7,923名(▲9.1%)と899億円(▲22.5%)に大幅に縮小しています。この実態を見て、中小製造業のオヤジさん達は、愕然としています。これまでオヤジさん達は、折りにつけ公設試に対して、研究員のレベルが低いとか、役に立たない研究ばかりしていると言ってみたり、官僚主義で研究設備の利用もままならないとか、ちっとも工場を訪ねて来ないといった不満を吐いてきました。それもこれも公設試にもっと良くなって欲しいという一種の愛情表現でした。これらの批判が予算削減に利用されてしまったのではないかと後悔しています。

それでは、九州・沖縄地域の13公設試の実態を見てみましょう。予算と職員数は、1996年度の526名、76億円から、2003年度の519名(▲1.3%)、68億円(▲9.5%)になったものの、全国平均よりは減少幅は小さい状況です。一方、博士号取得者は、1996年度の31名から2003年度の92名に3倍に増加しています。また、技術指導の件数も21,697件から32,771件へ、特許出願も134件から311件へと大幅に増加しています。厳しい財政状況の中で、当地域の公設試は、相当ガンバっていることがわかります。

しかし、この数字だけを見て、これまでが甘かったのだ、何も問題はないのではないかと自治体の財政当局が判断することも考えられます。だが、ちょっと待って下さい! 実際は、餓死寸前の象が必死に芸をしているようなものではないでしょうか? 技術研修の縮小(735回 → 503回)は人手不足のせいであり、開放試験室の利用減(1,047件 → 572件)や依頼試験の減少(53,344件 → 39,467件)は設備の老朽化の起因しているのではないかと危惧しています。

そもそも地域の技術コアである公設試を縮小していって良いのでしょうか? もちろん、一部の識者が主張するように、公設試は技術レベルが低い、これからは大学を地域の技術コアにするのだという考えもあります。しかし、大学には、公設試と同じだけの技術サービスを中小企業に提供できるキャパシティがありませんし、また、それだけの労力をかけることは、大学の本務でもないでしょう。

地域経済の自立化のためには、産業振興が最重要課題であり、地域の中小企業の技術力向上が不可欠であるという点については、異論はないはずです。一方、地方分権の流れの中では、中小企業庁から公設試への補助金を復活することが困難な状況です。そのため、是非、各自治体が改めて公設試の地道な活動に光を当て、予算や定員などの政策資源の配分に特段の配慮をすることを期待しています。